| わが国の薬物における裁判の現状 |
わが国の薬物対策は「ダメ絶対運動」が中心で、「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」というスローガンに代表されるように、違法薬物を使ったことがない人に手を出させないようにしようとする一般予防の観点しかなく、違法薬物の乱用者には刑罰が科せられるだけで、治療という観点が欠落していました。
平成16年の検挙人員を見ると、覚せい剤取締法違反者が約1万2千人、シンナー、トルエンを取り締まる毒物及び劇物取締法違反者が約4千600人、大麻取締法違反者が約2千人、MDMA、コカインやヘロインを取り締まる麻薬及び向精神薬取締法違反者が約600人、あへん法違反者が70人でした。また刑事裁判における薬物の自己使用事犯者の大半は覚せい剤取締法違反事件です。覚せい剤取締法違反者に対しては厳罰主義が採られており、初犯者で所持量が少なければ判で押したように懲役1年6月執行猶予3年の判決が言い渡されて野放しにされるものの、再犯者の場合は、前回の執行猶予付きの判決が言い渡されてから10年程度経過していないとまず間違いなく実刑判決が下されています。もし執行猶予中にまた覚せい剤を使用して起訴された場合、前の裁判の執行猶予が取り消されて、後の裁判の刑期と合計して3年以上も服役する人が出てきます。これが3回目、4回目ということになるとひとつの裁判だけで3年以上の刑が言い渡されることもあり、出所してはまたすぐに使って刑務所に戻ってくるということを繰り返している人の中には人生の大半を刑務所の中で暮らしているいる人もいます。しかし、薬物依存者とは、自らの意思で薬物使用がコントロールできなくなってしまった人たちなのですから、単に、裁判で執行猶予になったり、実刑になって刑務所に入れられたからといって、それだけで薬物依存から回復できるわけではありません。決して意志や根性で薬物使用がとまるわけではないのですが、これを理解している法律家は少ないのが現状です。
精神保健福祉法の改正により、平成12年4月1日から、精神障害者の定義規定に、新たに「精神作用物質による急性中毒又はその依存症」が追加され(同法第5条)、法律上も、薬物依存症は精神障害の一類型となっています。しかし、病気であるにもかかわらず、裁判では治療への配慮はなく、処罰があるだけです。検挙人員に見られるわが国の覚せい剤事犯者の再逮捕率が55%ということからも 、処罰偏重の刑事政策は薬物自己使用事犯の再犯防止には役立っていないのではないでしょうか。